後継者不在やM&Aによる事業の引継ぎは、いまや中小企業にとって身近な経営課題です。その際にかかる専門家への費用の一部を国が補助するのが「事業承継・M&A補助金」です。この記事では、M&Aの場面で使われることの多い専門家活用枠を中心に、制度のしくみと使いどころを整理します。

16次公募の申請受付は2026年10月2日から11月6日17時までです

公募要領は2026年9月4日に開示されました。採択の発表は2026年12月下旬以降、補助事業期間は交付決定(2027年1月下旬の予定)から14か月以内です。申請はJグランツからの電子申請だけで、GビズIDプライムの取得に1〜3週間かかります。お手元にない場合は、書類集めより先に申請してください。

どんな補助金か

事業承継・M&A補助金は、中小企業の生産性向上を後押しする国の事業の一つで、事業再編・事業統合に伴う経営資源の引継ぎに必要な専門家費用の一部を補助するものです。M&Aは規模の大小にかかわらず、仲介・ファイナンシャルアドバイザー(FA)への手数料、デューデリジェンス(買収監査)、契約書の作成など、外部の専門家にかかる費用が大きくなりがちです。そこに補助が入ることで、引継ぎへの一歩を踏み出しやすくなります。

3つの類型:買い手・売り手・小規模売り手

専門家活用枠は立場に応じて類型が分かれ、2026年9月公表の16次公募では次の3類型に整理されています。

立場で分かれる3類型
買い手支援類型

株式や事業を譲り受ける側を支援します。デューデリジェンスの実施が前提となります。

売り手支援類型

事業を譲り渡す側を支援します。地域の雇用や事業が第三者に引き継がれることが見込まれることが軸になります。

小規模売り手支援類型

小規模事業者の売却を対象とした類型です。補助率2/3以内・上限450万円で、補助下限額はありません。

同一のM&A案件であれば、買い手・売り手それぞれが申請することも可能です。

補助率と補助上限額の目安

補助率・上限額は公募回ごとに見直されますが、直近の専門家活用枠ではおおむね次のような水準です。

類型補助率補助上限額(目安)
買い手支援類型2/3以内600万円
売り手支援類型1/2 または 2/3以内600万円
小規模売り手支援類型2/3以内450万円
買い手支援類型(100億企業特例)1/2 または 1/3以内(段階制)2,000万円

買い手支援類型では、「100億宣言(100億企業)」の要件を満たす場合の特例により、補助上限が2,000万円まで引き上がります(補助額のうち1,000万円以下の部分は補助率1/2、1,000万円超〜2,000万円の部分は1/3)。上限は上がりますが補助率は通常の2/3より下がるため、専門家費用の総額によっては通常の買い手支援類型のほうが手取りが多くなります。特例には100億宣言のポータル公表と譲渡価額5億円以上という要件があり、同じ公募回で通常の買い手支援類型と併願することはできません。100億宣言の詳細は「「100億宣言」とは?」をご覧ください。

買い手支援類型と売り手支援類型では、デューデリジェンス費用を計上する場合に補助上限へ200万円が上乗せされ、廃業を伴うケースでは廃業費として300万円が加算されます。100億企業特例にこの200万円の上乗せはなく、2,000万円の枠の内側でデューデリジェンス1種につき200万円が上限になる点にご注意ください。補助事業期間内にM&Aが成約しなかった場合は上限が300万円に下がり、対象経費は買い手支援類型が原則デューデリジェンス費用のみ、売り手支援類型が原則デューデリジェンス費用とシステム利用料に限られます。

交付決定通知の前に締結した契約・発注は、原則として補助対象外です

M&Aでは、仲介契約やデューデリジェンスの発注のタイミングを誤ると、費用を支払っても補助されません。着手の順序は事前に必ずご確認ください。

補助の対象になる費用・ならない費用

対象となるのは、引継ぎの実現に必要な専門家関連の費用です。代表的なものは次のとおりです。

対象になる費用と、ならないもの
対象になる費用
  • 仲介・FAへの手数料(着手金・成功報酬など)
  • デューデリジェンス費用(財務・法務など)
  • 企業価値・株式価値の算定費用
  • 契約書の作成・レビュー費用 ほか
原則として対象外と判断されるもの
  • M&A支援機関登録制度に登録されていない業者の支援分
  • グループ内再編
  • 親族間の承継
  • 実体のない不動産だけの売買

「M&Aの費用なら何でも補助される」わけではない点は、計画段階での確認が欠かせません。仲介・FA費用については、依頼先がM&A支援機関登録制度に登録されているかを先に確かめてください。

申請の流れ

申請は電子申請システム「Jグランツ」で行い、その利用にはGビズIDプライムというアカウントが必要です。発行に1〜3週間ほどかかることがあるため、検討を始めた段階で早めに準備しておくと安心です。大まかな流れは次のとおりです。

申請までの4工程
  1. 1公募要領の確認と、専門家活用の検討

    類型・補助率・上限額・対象経費を自社のケースに当てはめます。

  2. 2GビズIDプライムの取得

    発行に1〜3週間ほどかかることがあります。検討を始めた段階で着手するのが安全です

  3. 3必要書類の準備

    決算書、登記事項証明書などを揃えます。

  4. 4Jグランツで提出

    申請情報を入力し、書類を添付して提出します。

よくある質問

Q. 補助率と補助上限額はいくらですか?
専門家活用枠の買い手支援類型は2/3以内で600万円以内です。売り手支援類型は原則1/2以内、物価高等により営業利益率が低下している場合や直近の決算が営業赤字か経常赤字の場合は2/3以内で、上限は同じく600万円以内となります。

Q. 補助上限額が上乗せされることはありますか?
デューデリジェンス費用を計上する場合は200万円以内が上乗せされ、廃業を伴う場合は廃業費として300万円以内が加算されます。ただし廃業費の上乗せは、関連する経営資源の引継ぎが補助事業期間内に実現しなかった場合は対象外です。

Q. 16次公募で変わった点はありますか?
補助率と補助上限額は15次から変わっていません。準備の内容が変わるのは2点で、まず常時使用する従業員1名以上の引継ぎについて、15次では不動産業だけを名指ししていた記載が、16次では業種を問わない扱いになりました。あわせて労働条件通知書が、売り手は業種を問わず公募申請時の提出書類になっています。もう1点は相見積で、FA・仲介費用に最低報酬額(ミニマムフィー)の定めがある場合、16次では相見積書の提出を求められます。

Q. 申請書類の作成は依頼できますか?
補助金の申請書類および事業計画書の作成と官公署への提出代理は、行政書士法に基づき、提携するLENKER行政書士事務所の行政書士が担当します。事業承継・M&A補助金では代理申請にあたり委任契約書と資格を証する書類の添付が求められるため、行政書士が正規に代理する形が確実です。制度の選定支援や市場と競合の分析、収益シミュレーションの素材資料の提供といった非独占業務は、当社がお引き受けします。

本記事は16次公募(2026年9月4日開示)時点の専門家活用枠の制度概要をもとにした一般的な解説です(最終確認日:2026年9月4日)。補助率・上限額・対象要件・スケジュールは公募回ごとに変わります。実際の申請にあたっては必ず最新の公募要領をご確認ください。

補助金の申請書類および事業計画書の作成と、官公署への提出代理は、行政書士法に基づき、提携するLENKER行政書士事務所(東京都行政書士会所属)の行政書士が行います。当社(株式会社LENKER)がご提供するのは、制度の選定支援、市場・競合の分析、収益シミュレーションの素材資料、採択後の経営伴走といった非独占業務です。申請書類および事業計画書の作成、お客様が作成された内容の添削取りまとめ、jGrantsへの申請内容の入力は、当社では行いません。

更新履歴:2026.08.02 よくある質問と構造化データを追加/2026.09.04 16次公募要領で数値を再照合し、申請受付期間・類型別の補助率表・16次の変更点を更新

まとめ

事業承継・M&A補助金は、引継ぎにかかる専門家費用の負担を抑えながら、円滑な事業承継・M&Aを後押しする制度です。ポイントは、自社のケースが対象になるか、そしてどの費用をどう計上するかを早い段階で見極めること。制度の選定から計画づくりまで、専門家と一緒に進めることで採択後の実行もスムーズになります。ご検討中の方は、お気軽にご相談ください。