経済産業省と中小企業庁は、令和9年度の概算要求・税制改正要望を公表しました。中小企業向けでは、M&A・事業承継、設備投資、省力化、AI・デジタル化、賃上げを一体で支援する方向が示されています。
この記事では、M&Aや事業承継を検討している中小企業が、今回の概算要求をどう見ればよいかを整理します。なお、概算要求は公募要領ではありません。補助率・上限額・対象経費・公募時期は、今後の政府予算案、成立予算、公募要領で変わる可能性があります。
概算要求は「来年度の制度の設計図」
概算要求とは、各省庁が翌年度に必要と考える予算を財務省へ要求する手続きです。ここに書かれた内容がそのまま制度として決定するわけではありませんが、来年度に国がどの分野へ予算を厚く配分したいかを読む材料になります。
補助金を使う側にとって重要なのは、金額そのものを確定情報として扱うことではなく、国がどの政策課題を重視しているかを早めに把握することです。今回の資料では、中小企業の賃上げ、価格転嫁、成長投資、事業承継、M&A、地域サプライチェーン、省力化・デジタル化が大きな軸になっています。
- 1概算要求
各省庁が翌年度に必要と考える予算を財務省へ要求します。いま公表されたのがここです。制度名も金額も、この段階では要求にすぎません。
- 2政府予算案
財務省の査定を経て、政府として国会に出す案が固まります。要求額から削られる事業もあります。
- 3成立予算
国会の審議と議決を経て、使える予算になります。
- 4公募要領
事務局が公募要領を公表して、はじめて補助率・上限額・対象経費・申請期間が確定します。申請の判断ができるのはここからです。
M&A・事業承継補助金は要求資料に明記
中小企業庁の概算要求資料では、独立行政法人中小企業基盤整備機構運営費交付金6,980億円が掲げられ、その内訳に「M&A・事業承継補助金」が明記されています。同じ交付金の内訳には、中小企業成長加速化補助金、省力化・デジタル化・AI投資補助金、小規模事業者持続化補助金も並んでいます。
M&A・事業承継に際しての設備投資、M&A・PMIの専門家活用費用等を支援。
売上高100億円超を目指す中小企業の大胆な投資を支援。賃上げ、輸出による外需獲得、地域経済への波及効果が支援の観点として挙がっています。
人手不足や生産性向上等の課題を抱える事業者へ、AIを含むデジタル技術の活用と省力化設備の導入を一体で支援。
「成長志向の経営計画(仮称)」を宣言する者を含む小規模事業者等の販路開拓等を支援。
出典:中小企業庁「令和9年度概算要求等のポイント」。いずれも要求段階であり、枠・補助率・上限額は未定です。
この書き方から見ると、M&A・事業承継補助金は単独の費用補助にとどまらず、成長投資や省力化投資と組み合わせて扱われる色合いが強くなりそうです。後継者不在への対応だけでなく、買収後に設備を入れ替える、管理体制を整える、PMIを進めるといった文脈での活用が重要になります。
設備投資とセットで考える場面が増える
経済産業省関係の概算要求では、新事業進出・ものづくり商業サービス補助事業として2,200億円、地域の産業クラスター形成に向けたサプライチェーン形成支援補助金として2,376億円(うち1,376億円は後年度負担分)が示されています。省エネ・非化石転換に関する投資支援も大きく、設備投資を通じた生産性向上やGXが来年度も主要テーマになると見られます。
出典:経済産業省・中小企業庁の令和9年度概算要求資料(最終確認日 2026年8月31日)。要求額であって、採択規模でも予算額でもありません。
M&Aの買い手にとっては、買収そのものだけでなく、引き継いだ工場・店舗・設備をどう改善するかが問われます。特に製造業、食品、物流、医療・介護周辺、地域の生活関連サービスでは、M&Aと設備更新を別々に考えるより、引継ぎ後の投資計画として一体で整理するほうが実務に合います。
買い手は税制改正要望も確認する
税制面では、中小企業事業再編投資損失準備金(中堅・中小グループ化税制)の延長と手続き見直し、事業承継税制の抜本的見直し、賃上げ促進税制、中小企業経営強化税制などが要望に含まれています。
この準備金制度は、M&Aで株式を取得する買い手が、一定の要件のもとで準備金を積み立てられる制度です。令和9年度税制改正要望には、適用期限の延長や手続きの見直しが入っています。M&Aの検討では、補助金だけでなく、税制優遇、賃上げ要件、経営力向上計画などを合わせて確認する必要があります。
今から準備しておきたいこと
制度の詳細が固まる前でも、準備できることはあります。来年度の公募を見据えるなら、次の資料を早めに整理しておくと、公募要領が出た後の検討が速くなります。
- M&Aの目的、引き継ぐ経営資源、買収後の事業計画
- 設備更新、省力化、AI・デジタル化、PMIにかかる投資予定
- 賃上げ、生産性向上、地域雇用、取引先への効果
- 決算書、株主構成、従業員数、既存設備、見積の前提
- 補助金と税制優遇を併用する場合の手続きの順序
補助金は、交付決定前の契約・発注が対象外になる制度が多くあります。M&Aでは仲介契約、デューデリジェンス、基本合意、最終契約の時期が先に動きやすいため、補助金の利用を考えるなら、早い段階で手続きの順序を確認しておくことが大切です。
よくある質問
Q. 令和9年度概算要求に書かれた制度は、もう使えますか?
いいえ。概算要求は公募要領ではありません。予算編成、国会審議、制度設計、事務局の公募などを経て、実際の公募内容が決まります。
Q. M&A・事業承継補助金は来年度も続きそうですか?
中小企業庁の資料にM&A・事業承継補助金が明記されているため、来年度も政策上の重要テーマとして扱われる可能性は高いと見ています。ただし、類型、補助率、上限額、対象経費、公募時期は未定です。
Q. 税制優遇も同時に相談できますか?
M&Aの目的や投資計画を整理したうえで、経営資源集約化税制や経営力向上計画など、確認すべき制度を洗い出します。税額計算や申告が関わる部分は、必要に応じて税理士と連携して進めます。
本記事は、経済産業省・中小企業庁が公表した令和9年度概算要求・税制改正要望資料に基づく一般的な解説です(最終確認日:2026年8月31日)。概算要求は、政府予算案・成立予算・公募要領ではありません。実際の補助率・上限額・対象経費・公募時期は今後変更されます。最新情報は、経済産業省の公表ページおよび中小企業庁の予算関連ページをご確認ください。
補助金・在留資格に関する申請書類の作成および官公署への提出代理は、行政書士法に基づき当事務所(東京都行政書士会所属)の行政書士が行います。制度の選定支援・事業計画づくり・経営に関する分析等の非独占業務は、提携する株式会社LENKERが提供します。事業計画書の確認が中小企業診断士・公認会計士・税理士に限定される制度(在留資格「経営・管理」等)については、当事務所は確認主体とはならず、提携専門家をご紹介のうえ申請書類の作成・提出代理を担当します。
まとめ
令和9年度概算要求を見る限り、来年度も中小企業のM&A・事業承継、設備投資、省力化、賃上げは重要な政策テーマになりそうです。特に買い手企業は、M&A費用だけでなく、買収後の設備更新、PMI、賃上げ、税制優遇まで含めて計画を組むことで、制度を活用しやすくなります。
当事務所では、M&A・事業承継補助金、設備投資補助金、経営資源集約化税制の検討をまとめて整理します。来年度の公募に向けた準備を始めたい方は、早めにご相談ください。
更新履歴:2026.08.31 初版公開(令和9年度概算要求・税制改正要望を反映)