中小企業事業再編投資損失準備金(中堅・中小グループ化税制)は、M&Aで株式を取得した買い手が、取得価額の一定割合を準備金として積み立て、損金算入できる制度です。現行の適用期限は令和8年度末までで、経済産業省の令和9年度税制改正要望には3年間の延長が入りました。

買い手にとって重いのは、延長そのものよりも「認定を受けるタイミング」です。この制度は最終契約を結んでから申請しても間に合いません。

準備金の適用期限は令和8年度末まで

準備金は、M&Aを実施した際に株式取得価額の最大100%を積み立て、損金算入できる制度です。積み立てた額は据置期間を過ぎたあと、5年間で均等に取り崩して益金に算入します。簿外債務の発覚などで減損処理をした場合や、取得した株式を売却した場合も取り崩しの対象です。

経済産業省の要望書は、この措置の適用期限を3年間延長したうえで、M&A実務の実態に即した手続きとなるよう、計画認定に係る所要の見直しを行うと書いています。要望であって、延長が決まったわけではありません。

どの計画を認定してもらうかで、積立率が変わる

積み立てられる割合と据置期間は、どちらの計画で認定を受けるかによって変わります。

2つの計画で、積立率も据置期間も違う
経営力向上計画(中小企業)
  • 株式取得価額の70%以下を積立
  • 据置期間は5年間
  • 根拠は中小企業等経営強化法
  • 初回のM&Aから使える
特別事業再編計画(中堅・中小企業)
  • M&A2回目に90%、3回目以降に100%を積立
  • 据置期間は10年間
  • 根拠は産業競争力強化法
  • 過去5年以内にM&Aの実績が必要。中堅企業は2回目以降から

出典:経済産業省「令和9年度税制改正に関する経済産業省要望の概要」26ページ(最終確認日 2026年9月1日)。

連続して買収する予定があるかどうかで、選ぶ計画が変わります。1件で終わるなら経営力向上計画、2件目以降を見据えるなら特別事業再編計画が候補です。

日程を縛るのは、認定を受けるタイミング

どちらの計画も、M&Aの基本合意後から最終合意前までに申請し、主務大臣の認定を受ける必要があります。基本合意より前でも、最終契約を結んだ後でもありません。

認定を挟める区間はここだけ
  1. 1基本合意

    ここで認定申請の窓が開きます。申請できるのはここから先です

  2. 2計画の申請と認定

    計画に書く内容は、経営力向上計画が事業承継等事前調査、特別事業再編計画が新規取組です。

  3. 3最終合意

    ここで窓が閉じます。認定が間に合わなければ準備金は使えません

  4. 4株式取得の実施

    認定を受けた計画の内容どおりに取得することが条件です。

  5. 5主務大臣への報告と確認書の交付

    事業承継等を実施したことと、事前調査(デューデリジェンス)の内容を報告します。

出典:同上。認定の要件は計画ごとに定められています。

最終契約を結んでからでは間に合いません

M&Aの現場では、基本合意から最終契約までが数週間ということもあります。準備金を使う可能性があるなら、基本合意の前の段階で計画の骨子を作り始めるのが実務的です。

要望に入っている「手続きの見直し」が指しているもの

令和9年度要望には、延長とあわせて「M&A実務の実態に即した手続きとなるよう、計画認定に係る所要の見直しを行う」と書かれています。何がどう変わるかは、要望の段階では示されていません。

ただ、上に見たとおり現行の制約は認定を挟める区間の狭さにあります。見直しの中身がここに及ぶかどうかは、12月の与党税制改正大綱まで分かりません。

事業承継税制も同じ年に結論が出る

同じ要望書には、事業承継税制の抜本的な見直しも入っています。令和8年度与党税制改正大綱に「適用期限到来後のあり方については、多角的な検討を行い、令和9年度税制改正において結論を得る」と記載されており、それを踏まえた要望です。

買い手側の準備金と、売り手側の事業承継税制。M&Aの両当事者に関わる制度が、同じ年の改正で動きます。

いつ確定するか

税制改正要望は、各省庁が出す要望にすぎません。ここから与党税制調査会の議論を経て、12月に与党税制改正大綱がまとまり、翌年の法案として国会に提出されます。

M&Aの日程を組むうえでは、大綱が出るまでは現行の制度で計画を立てるのが安全です。適用期限が令和8年度末までである以上、それまでに認定を受けられる日程かどうかが判断の分かれ目になります。

よくある質問

Q. 準備金は令和9年度も使えますか?
現行の適用期限は令和8年度末までです。令和9年度税制改正要望に3年間の延長が入っていますが、要望であって延長は決まっていません。12月の与党税制改正大綱で方向が固まります。

Q. いくら積み立てられますか?
経営力向上計画の認定を受けた中小企業は株式取得価額の70%以下、据置期間は5年間です。特別事業再編計画の認定を受けた中堅・中小企業はM&A2回目に90%、3回目以降に100%まで積み立てられ、据置期間は10年間です。

Q. 計画の認定はいつまでに受ける必要がありますか?
どちらの計画も、M&Aの基本合意後から最終合意前までに申請し、主務大臣の認定を受ける必要があります。最終契約を締結してからでは間に合いません。

Q. 認定申請の書類作成は依頼できますか?
経営力向上計画および特別事業再編計画の認定申請書類の作成と官公署への提出代理は、行政書士法に基づき当事務所の行政書士が行います。税額の計算と申告は、顧問税理士または提携する税理士が担当します。

本記事は、経済産業省「令和9年度税制改正に関する経済産業省要望のポイント」および「同 要望の概要」(いずれも2026年8月31日公表)に基づく一般的な解説です(最終確認日:2026年9月1日)。税制改正要望は、与党税制改正大綱・法案・成立した法律ではありません。積立率、据置期間、適用期限、計画認定の要件は今後変更されます。最新情報は経済産業省の公表ページをご確認ください。
補助金・在留資格に関する申請書類の作成および官公署への提出代理は、行政書士法に基づき当事務所(東京都行政書士会所属)の行政書士が行います。制度の選定支援・事業計画づくり・経営に関する分析等の非独占業務は、提携する株式会社LENKERが提供します。事業計画書の確認が中小企業診断士・公認会計士・税理士に限定される制度(在留資格「経営・管理」等)については、当事務所は確認主体とはならず、提携専門家をご紹介のうえ申請書類の作成・提出代理を担当します。
税額の計算、申告、有利不利の判断は税理士の業務です。顧問税理士または提携する税理士が担当します。

まとめ

準備金は、適用期限が令和8年度末までという点と、計画の認定を基本合意後から最終合意前までに受けなければならないという点で、M&Aの日程そのものに食い込む制度です。令和9年度要望には3年間の延長が入りましたが、確定は12月の大綱を待ちます。

当事務所では、経営力向上計画と特別事業再編計画の認定申請、日程の逆算、認定後の報告までを担当します。基本合意が見えてきた段階でご相談ください。

更新履歴:2026.09.01 初版公開(令和9年度税制改正要望を反映)